アジアン・プリンス
ティナは溜息とともに各社の新聞をベッドの上に放り投げた。


「なぜ? どうしてこんなことになったの?」


彼女の全く知らぬ間に、父は娘をビジネス取り引きの担保のように、差し出してしまった。それも他国の王妃に。

どうやら父は、いや、妹以外の家族全員、ティナのことなどなんとも思ってないことが良く判った。

そうでなければ、曰くつきの国王の妃になどやりはしないだろう。これが妹のアンジーなら、何があっても反対したはずだ。

そう考えて、ティナは苦笑いを浮かべる。


「アンジーなら話すら持ち上がらないわね」


王妃になる、と言っても、すでに国王は40歳を過ぎていたはずだ。しかもここ数年、マスコミの前はおろか、国民の前にすら出てきていない王様。

今から30数年前、同じような状況でその国に嫁いだアメリカ人女性がいた。今の王太后だ。彼女の人生は誰の目にも「幸福なプリンセス」には映らないだろう。

それが判っていて、父は私を同じ場所に追いやろうとしている。


悲しすぎて涙も出ない。


結婚などする気はなかった。一生、誰を愛するつもりもなかったのに……。いや、今もない。
 

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