アジアン・プリンス
「ん~、だから。2回くらい式の予定が決まってから、花嫁側から延期を願い出てきたんだって。ネットの記事を読んだくらいだけどね。婚約者は、あたしと同じで大学生じゃなかったかな?」

「それは知ってるわ。9歳年下って書いてあったから、21歳でしょうね。でも、延期なんて……よく破談にならなかったわね」


皇太子は優しい。あれほどの醜態を晒したのに、短気も起こさず、辛抱強く、私が“イエス”と言うまで付き合ってくれた。

兄嫁の候補にすらそうなのだ。自分の婚約者になら、どれほど優しく接するのだろう。


きっと、あの大きな手で抱き寄せ、腕の中に捉えたら最後、降参するまでキスを繰り返すような気がする。

そう、私の指先に触れたように、柔らかな唇で……。

あの青い瞳に間近で見つめられたら……。


「――さま? 姉さま? やだ、切れちゃったのかしら?」


アンジーの声にハッと我に返り……。赤面を通り越して蒼白になる。


あの日から夜ごと膨れ上がる妄想に、ティナは自分が怖くなっていた。


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