アジアン・プリンス
「あ、すみません。その……そういう訳じゃないんです。そうじゃなくて」


――あなたのことを意識し過ぎて、絶対に口にはできない。


「君は、我が国のことをどれくらい知ってるのだろうか?」

「妹が……楽園だと言っていました。最先端の設備と自然が融和している、と。私は、図書館で調べたことしかわかりません。2度に渡る太平洋戦争で国土は荒れ果て、完全な独立までは半世紀を要し、アズウォルドを今の豊かな国に導いたのは……12年前に立太子と同時に摂政となられたレイ皇太子殿下である、と」

「楽園、か。――アズウォルド国民の9割に日本とアメリカ、両方の血が入っている。それが何を意味するかわかってもらえるだろうか」

「大国……戦勝国が戦地において、様々なものを略奪した、ということでしょうか」


彼の国が、太平洋上の重要な戦略拠点となりうるのは、小学生にもわかりそうなものだ。

日米だけでなく、ロシア・英国・スペイン……当時の大国はこぞって、かの地を狙った。


ティナは、答え辛い質問に、できる限りの敬意と思いやりを持って返答する。


皇太子はティナの答えに満足したのか、かすかに口元が緩んだ。


「略奪、と言われれば気が楽だ。正確には、我らが差し出した。――四方を海に囲まれ、自然の要塞に守られて暮らして来た我が国には、近代兵器を手にした外敵に立ち向かう術はなかった。彼らはあらゆる物を差し出して……言い方は悪いが、命乞いをしたのだ。その結果、この体に流れる血は、最早、2世紀前の祖先とは遥かに違ってしまった」


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