アジアン・プリンス
だが、そんなティナの様子にレイはすぐに気付く。そして、自分からスッとジャケットを脱ぎ、側近に渡した。


「久しぶりの帰国だ。君の国に比べると、やはりこのスーツでは暑いな」


ごく自然な動作でカフスボタンを外し、袖を捲り上げる。

レイの顔は優しく微笑み、ティナにも上着を脱ぐように促した。


だが、レイがジャケットを脱いだ瞬間――周囲にわずかだが緊張が走った。


その直後、ティナがブラウス姿になったとき、皇太子補佐官であるサトウの視線は、一層鋭さを増した。

彼らは皆、レイの右手首にあるはずのものを、ティナの手首に見つけ驚愕の表情を浮かべていたのだ。


しかしこの時、舞い上がったティナの瞳に映るものは、プリンスの笑顔だけだった。


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