アジアン・プリンス
「あなた、クリスティーナが参りましたわ」
ティナの母、ヘレンが夫に告げた。ところが、その声は予想外にも苦悩を孕んでいるように聞こえる。
「うん? ああ、そうか。――どうした?」
「え、ええ……ドレスが……その」
「まさか、ドレスに着替えてないとでも言うんじゃあるまいな!」
「いえ、ドレスは立派なものだとは思いますが……」
ヘレンの目は泳いでいる。
メイソンは一家の暴君だ。誰も逆らえない。古き良き時代の教育を施されたヘレンにとっては尚のこと、だった。
ハッキリ口にすることはできず、ヘレンは視線を中央階段の下にやる。
メイソンがその先に見たものは……。
そこには今夜の主役になるべき、娘、クリスティーナが立っていた。
スレンダーラインのドレスはプラダのクチュールだ。光沢のある素材で、まぶしいくらいシャンデリアの光に輝いている。
しかし、彼女の姿には大きな問題がふたつあった。
まずはひとつ、ティナはなんと漆黒のドレスを身に着けていた。
そしてふたつ目……イブニングドレスであるにも関わらず、肩から首筋、手首まで、真っ黒のジョーゼットで覆われていたのだ。
付け加えるなら、ティナのチャームポイントである腰まで流れる金髪は、黒いリボンで固く結い上げられている。両耳にはひと粒パールのイヤリングを付け、黒い手袋と黒いシューズを履き……まるで未亡人のようないでたちだ。
重傷で伏せる国王の花嫁となるのに、縁起の悪いことこの上ない。
ティナの母、ヘレンが夫に告げた。ところが、その声は予想外にも苦悩を孕んでいるように聞こえる。
「うん? ああ、そうか。――どうした?」
「え、ええ……ドレスが……その」
「まさか、ドレスに着替えてないとでも言うんじゃあるまいな!」
「いえ、ドレスは立派なものだとは思いますが……」
ヘレンの目は泳いでいる。
メイソンは一家の暴君だ。誰も逆らえない。古き良き時代の教育を施されたヘレンにとっては尚のこと、だった。
ハッキリ口にすることはできず、ヘレンは視線を中央階段の下にやる。
メイソンがその先に見たものは……。
そこには今夜の主役になるべき、娘、クリスティーナが立っていた。
スレンダーラインのドレスはプラダのクチュールだ。光沢のある素材で、まぶしいくらいシャンデリアの光に輝いている。
しかし、彼女の姿には大きな問題がふたつあった。
まずはひとつ、ティナはなんと漆黒のドレスを身に着けていた。
そしてふたつ目……イブニングドレスであるにも関わらず、肩から首筋、手首まで、真っ黒のジョーゼットで覆われていたのだ。
付け加えるなら、ティナのチャームポイントである腰まで流れる金髪は、黒いリボンで固く結い上げられている。両耳にはひと粒パールのイヤリングを付け、黒い手袋と黒いシューズを履き……まるで未亡人のようないでたちだ。
重傷で伏せる国王の花嫁となるのに、縁起の悪いことこの上ない。