アジアン・プリンス
いったい、レイはどうしたというのだろう……。

深夜の12時に公務から戻るなりプールに飛び込むなんて。それとも、これは普段通りの行動なのだろうか?

ティナが想像していたレイのイメージとはあまりにかけ離れていて、正直面食らっていた。

だが――彼の裸身は、まるでダビデ像のように美しい筋肉が付いていた。神が彼を創造したときに、決して手を抜かなかった証拠だろう。


「ティナ! おいで。一緒に泳ごう」

「そんな、無茶です! 水着がありません」

「必要ない。心配はいらないよ。襲ったりはしないし、暗くてよく見えないさ」


(いいえ! ちゃんと見えてます!)


そう言いそうになり、慌てて口をつぐんだ。

今夜は新月だ。確かに月明かりはないが、宮殿を照らす灯りはレイのボディラインを綺麗に浮き立たせていた。

レイは、ザッと水を切って泳ぎ始める、バタフライで泳ぐ姿は、水の中を飛んでいるように美しい。

何度も往復するその姿に、ティナは心ならずもまた見惚れることになってしまい……。

しかしその直後、不意にレイの姿が水中に掻き消えた。


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