アジアン・プリンス
機内はどことなく息苦しく、暗雲が立ち込めていた。ふたりの保つ一定の距離が、ピリピリした空気をかもし出している。

それに引き替え……ヘリの窓から見える空は、雲ひとつ見えないほど晴れ渡っていた。


約30分でヘリはアサギ島に到着。さらに30分後、ティナはスマルト宮殿の入り口に立っていた。


スマルト宮殿は日本の『ゴショ』を思わせる建物だ。

壮大というより、横に広く、荘厳な印象を受ける。南国にはどこかミスマッチで、そこだけ違う空気が漂っていた。

正門から一歩足を踏み入れると、白砂を敷き詰められた枯山水の広大な庭があった。

所々に配置された庭石。通路の脇に置かれた灯篭。木立の向こうに見え隠れする東屋。あえて池を造らず砂で表す日本独特の侘び寂が、ティナを異国に迷い込んだような錯覚に陥らせる。

建物の中に通され、ガラス越しに見えた裏庭には、日本から運んで植えられた竹林があった。

その余計なものを省いたすっきりとした緑が、清涼な風を生み出すようで……見るからに涼しげだ。


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