アジアン・プリンス
(20)傾国の魔女
「あなたが、陛下の婚約者ですって?」


そこに立っていたのは、典型的なアジア人女性だった。年齢は60代だろうか。目を細めて、蔑むようにティナを見ている。その瞳は、暗く澱んでいた。


「あの……失礼ですが」

「わたくしは国王の母です。控えなさい」

「あっ、申し訳ありません」


ティナは慌てて立ち上がり、ソファより後方に下がった。


「クリスティーナ・メイソンと申します。レイ皇太子殿下のお招きで、こちらに」

「ああ、いいわ。あなたのことは調べました。説明は要りませんよ」


まるでハエでも追い払うように手を振って、国王の母、ミセス・チカコ・サイオンジはソファに腰掛ける。


「それで……あなたにはどんな特典があるのかしら? あのペテン師は、あなたに何を約束したの?」

「は?」


ティナにはサッパリわからない。


「レイはあなたに何をあげると言ったのかしら? お金? それとも地位? 或いは、この国でマスコミから隠れて自由に暮らせる権利、とかかしら」


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