アジアン・プリンス
妻子を失い、自身も多くの機能に障害が残った。そんな状態で、シン王子は弟の懇願により、国王に即位した。

だがこの時、彼は未来への希望を全て失っていたのだ。レイもそんな兄の心と体を案じ、充分に注意していたはずだった。

しかし……事故からちょうど4年後、妻の命日に彼は首を括ったのである。

しかも、間の悪いことに、レイは海外訪問中で長期に渡り国を不在にしていた。兄を発見したのは母、チカコだった。


「彼女は兄上の事件を私に報告しなかった。帰国後、王宮医師ドクター・ラスウェルからの報告でそれを知った。私が駆けつけた時、兄上は植物状態に陥って1ヶ月も経っていたんだ。私がそれを公表しようとしたとき……」

「自殺なんて! ……そんなことが知れたら、陛下の名誉はどうなるの?」


チカコは息子を庇った。

祖父の推進したカトリックへの改宗が、国民に広まりつつある時期だった。

そんな中、手本となるべき王族は、長きに渡り離婚や庶子の問題に揺れ続け……。挙げ句の果てに国王自らが自殺。未遂とはいえ、カトリックにあるまじき大罪だ。


さらには、国策であるはずの観光事業もテロにより下降線を描いていた。

頼みの綱はレイの推し進めた海底油田の発掘のみ。国際協力により成果が表われ、さあこれから、と言う時だった。


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