櫻の贄
「毒は盛っていない。安心して食べると良い」

「…………」


まるで俺のひとりごとのようだ。何を話しても彼女は一言も言葉を口にはしなかった。

俺が全てを食べ終えても、彼女の分の食事はまだ手つかずで。

困った頃にふと忘れていた事を思い出した。そういえばまだ俺は……。


「大河(たいが)」


まだ名乗っていなかった。まだ彼女は俺の事を知らなかったから。

ましてや知らない奴と話すこなんて出来ないだろう。

今思えば浅はかな考えだったのかもしれないが。

しかし彼女は初めて表情を絶望から驚いたような表情へと変えた。

まさか名乗られるとは思ってもいなかったのだろう。
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