「金剛戦士Ⅰ」黎明の夢
さあ出ようと、テレビを消そうとした時、事務総長が会見している場面のリプレイが流れた。

二人は消すのをやめて見ていた。

前回見たときと同様に、事務総長は落ち着いて、言葉を慎重に選びながら、私たちに一生懸命に訴えかけてきている。

日本政府の総理大臣が、話しかけても不安感は消えない。それどころか逆に、もっと不安になったりするものだが、彼を見ていると、やや落ち着いてくる。

精神的に重たいものが、少しではあるが軽くなった気がする。

二人は、きっと彼は、私たちの分まで背負い込んで、重圧に耐えてくれているのだと感じた。

テレビを見ていて、出発するのが遅れたと、二人は慌しく出て行った。

こらから今日と明日は、ただひたすら南に向かって歩くだけである。

宿の人が、ここら辺りから南の海岸は、サーフィンのメッカだと教えたくれた。

その海岸沿いに、ただ歩くのみである。

五月の風が、きらめいている。

風は海の上を渡り吹いてきて、歩く二人の身体に心地よさを与える。

リアス式の美しい海岸沿いの向こうには、島が見え、青い海が広がる。その海を見ると、五月の太陽の光が反射して、きらきらと輝き、眩しく感じた。

美しい景色と、爽やかな空気に包まれる中を、二人は歩いてゆく。

由紀は一生懸命に歩いているのだが、早歩きのお遍路さんに、たまに追い越される。

追い越すときに、二人に一声掛けていく人もいれば、ただ無言で修行僧の如く歩き去っていく人もいる。
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