「金剛戦士Ⅰ」黎明の夢
それを見て、由紀も急いで支度を整えて、二人は朝食を済ませると、出発した。

五番地蔵寺は宿から出て、すぐの所にあり、お参りを済ませると二人は、次の六番安楽寺を目指して歩き始めた。

六番へは吉野川の北岸の平野を一時間半ほど歩くことになる。

この近くは蓮根の大産地である。夏になると美しい蓮の花が咲き、まるで極楽浄土のような風景が見られる。

歩きながら由紀は理絵に問い掛けた。

「昨夜は、あまり眠れなかったの」

理絵は、前を見たまま
「うん」
とだけ答えて、歩いてゆく。

おそらく直や勇太のことが気になり眠れていないのであろう。

兄の直は学者であり、エウロパ調査隊のリーダーであった。

エウロパには観測宇宙ステーションがあり、定期的に交代している。

その宇宙ステーションに滞在している調査隊の隊長であった。

メンバーは学者が二名、パイロットが二名、技術者が二名、それと医師が一名の合計七名である。その七名が、半年毎に、そっくり入れ替わることになっている。

直たちクルーは、今から約三ヶ月前に次の調査隊員と交代になり、地球へ帰還する筈であった。ところが交代要員を乗せた地球からの宇宙船がステーションに近づき、まもなくドッキングするという時に、宇宙船もろとも消息を絶ってしまった。

その後、宇宙ステーションの存在は確認されたのだが、ステーションの搭乗員とは連絡が途絶えてしまったままである。直たちクルーは、消息不明となっている五隻の調査隊と合わせて、四十二名に上る行方不明者に含まれているのである。

勇太は小惑星帯調査船のパイロットであり隊長である。

今、どこで活動しているのか、詳しい事は、二人は知らない。

でも、次々と調査隊が消息を絶ち非常に心配している。

七番十楽寺を出た所で、うどん屋が目に留まり、入って昼食を取ることにした。
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