佳き日に




閏は本題に行く前に一つ息をつく。

「で、ですね。先輩が送ってきた画像の子、僕さっき見たんですよ。」

電話の相手が口をつぐんだのが分かる。
一瞬沈黙が訪れる。

「今日僕バスに乗った時この子見たんですよ。御学高校から勢よく走り出てきた子で。なんかおもしろかったので覚えているんですよ。」

「だから閏はすぐに分かったのか。」

閏。
雪の名前の呼び方はなんだか曖昧だった。

閏はそこで、昔椿と話していた時のことを思い出した。

「僕、雪先輩と何年の付き合いになりますかね?」

「さぁ。いつからだろうな。」

「多分2、3年ですよ。」

“信頼されて初めて、名前で呼んでもらえる“
椿がずっと昔に雪のことで言っていた。
その時閏は雪と知り合って一ヶ月も経っていなかった。
椿の話を聞いて、確かに名前で呼ばれたことがないな、と思った。
あの時は大して気にはしなかった。

いつから名前で呼ばれるようになったのだろう、と閏は思った。
何故か自然と顔が綻んだ。

「僕、雪先輩のこと気に入っているんで、一つだけ言ってもいいですか?」

「何だ、忠告か?」

雪が苦笑いするのが分かった。

「メモリーズじゃない一般人とは、仲よくしない方が得策ですよ。」

結局、どちらも傷ついて殺される。

そんな話は幾度も聞いた。
雪先輩もきっと分かってるはずだ。

雪はそう思い、少し緊張して電話に耳を傾ける。



だが、雪の返答はあっさりしたものだった。


< 26 / 627 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop