佳き日に
閏は本題に行く前に一つ息をつく。
「で、ですね。先輩が送ってきた画像の子、僕さっき見たんですよ。」
電話の相手が口をつぐんだのが分かる。
一瞬沈黙が訪れる。
「今日僕バスに乗った時この子見たんですよ。御学高校から勢よく走り出てきた子で。なんかおもしろかったので覚えているんですよ。」
「だから閏はすぐに分かったのか。」
閏。
雪の名前の呼び方はなんだか曖昧だった。
閏はそこで、昔椿と話していた時のことを思い出した。
「僕、雪先輩と何年の付き合いになりますかね?」
「さぁ。いつからだろうな。」
「多分2、3年ですよ。」
“信頼されて初めて、名前で呼んでもらえる“
椿がずっと昔に雪のことで言っていた。
その時閏は雪と知り合って一ヶ月も経っていなかった。
椿の話を聞いて、確かに名前で呼ばれたことがないな、と思った。
あの時は大して気にはしなかった。
いつから名前で呼ばれるようになったのだろう、と閏は思った。
何故か自然と顔が綻んだ。
「僕、雪先輩のこと気に入っているんで、一つだけ言ってもいいですか?」
「何だ、忠告か?」
雪が苦笑いするのが分かった。
「メモリーズじゃない一般人とは、仲よくしない方が得策ですよ。」
結局、どちらも傷ついて殺される。
そんな話は幾度も聞いた。
雪先輩もきっと分かってるはずだ。
雪はそう思い、少し緊張して電話に耳を傾ける。
だが、雪の返答はあっさりしたものだった。