佳き日に




「ねえちゃん、すげぇ格好してんな。」

ビュッと空気を切り裂く音と共に男がナイフを茜へ振りかざす。
間一髪で茜がそれを避ければ酒臭い息とともに男がニッと笑った。
曲がったその目は茶色い。
メモリーズ、そう思うと同時に銃を向ける。

「物騒だなぁ。」

穏やかな口調とは対照的に男がナイフを振りかざす速度は速い。

茜はドレスの裾をガッと掴みそれを上へ引っ張る。

男の視界を遮るように広がったドレスがザシュッとナイフで引き裂かれる音がする。
その隙をつき、茜は男の足を引っ掛けた。

グラリ、と男の重心が不安定になる。
指に力を入れ、引き金を引く。

パァンッ、と乾いた音。

男の身体が重力に従って倒れる。

一人、終わった。
床に広がった血を踏まないよう両手でドレスを持ち上げ、茜は歩き出す。

いつの間にか店には死体が二体転がっているだけでガランとしていた。
外から銃声が聞こえるので逃げた奴らを上司が追っているのだろう。

室内に充満する血の匂い。


唐突に後ろから引っ張られ、背中を壁に強く打ち付ける。


「あんた、すごい格好してるね。」

上から降ってきた野太い声。

似たようなことを今日だけで三人に言われたな、と茜はゲンナリした。



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