佳き日に





男はカチカチと携帯を操作している。
この隙に逃げるべきか。

だが、琥珀は桔梗を背負っているのだ。
逃げ切れる可能性は低い。

視線を彷徨わせ突破口を探す。



「エナカさんがもうすぐ来ます。」


は、と忙しく動かしていた目を止め、口を開けてしまった。
予想もしていなかった人物の名前が男の口から出た。

琥珀はポカンと男の顔を見つめる。


「ここで待っていてください。表は政府の人間がたくさんいるから。」


琥珀が何も言えないでいるうちに男はそう言ってどこかへ行ってしまった。

桔梗の正体に男は気づいていた様子だった。
琥珀が嘘をついたことも分かっていたようだ。

分かっていて、見逃した。

背中に桔梗の浅い呼吸を感じながら琥珀は立ち尽くしていた。






< 562 / 627 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop