閑中八策
「坂道のアポロン」もビートルズがリアルタイムで流行っているという設定から1960年代中盤の物語である事が分かる。
この作品でも大学で政治運動に首を突っ込んでしまい破滅して行く人物として「淳兄」という人物が登場する。

またドラマーの千太郎はアメリカ人の父と日本人の母親のハーフだが、これが原因で母親と離別した事になっている。
この時代、庶民の生活はまだまだ貧しく、在日米軍基地に近い都市では米兵の現地妻になる女性が珍しくなかった。

千太郎の父親の素性が明らかにされない、またハーフである千太郎を生んだ事で母親が実家から絶縁された点から考えて、彼の母親は米兵の現地妻だったと推察される。
当時はハーフ、特に欧米人との間のハーフに対する差別は激しく、千太郎が不良に育っているのはそのためだろう。

また主人公である西見薫と千太郎の住む家の環境の落差から分かるように、当時の貧富の差というのは現代日本の格差の比ではない。
学生時代にはそれを超越した友情や恋愛もありだが、大人になって行くにつれて道を分かたねばならなくなる、そういう非情な現実がきちんと描かれている点で、この作品は年配者の「三丁目の夕日」礼賛とは一線を画している。
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