閑中八策
「氷菓」では第1エピソードでヒロインである千反田えるのおじさんの学生時代の過去という形だが、高校での学生運動が原因である事から考えて1960年代の出来事だと思われる。

昭和30年代というのは西暦で言えば1955年から1964年。ただし三丁目の夕日に描かれているような経済成長、社会情勢の激変は東京と地方では最大10年ほど時間差があるので、前後にもう少し長い期間だったと考えてもいい。

この時代、戦前のファシズム体制が敗戦で終わり、GHQによる占領からも解放され、大学生を中心に社会主義革命運動が全国を席巻した。
この波は高校にも及んだが、大学生が大真面目に社会主義革命を目指したのに対し、高校での運動は戦前的な権威主義が残っていた学校当局に反抗するだけというレベルだった。

「氷菓」で関谷純が退学に追い込まれる事になった騒動も、学園祭の期間短縮に反対するという程度の低い話であり、かつこのヒロインのおじさんはおだてられて名目上の運動指導者に祭り上げられただけ。
最後には学友全員に裏切られた形で騒動の全責任を押し付けられ退学させられた、という話である。

えるは幼い頃おじさんからこの話を聞かされショックを受けて、その時何の話をしたのか、を思い出せなくなった。
これが第1エピソードの発端なのだが、彼女の反応から分かるように今の若者にとっては「何だ、そりゃ?」という話なのだ。
昭和30年代の学生運動を引き合いに出して今の若者の政治への無関心を批判する年配者も多いが、あの時代の「政治に熱心な若者」の本質なんてその程度の物でしかない。
このあたり、今の若者は結構冷静に見ているようだ。
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