愛は満ちる月のように
「あ……申し訳ございません。お、お客様と聞き、お茶を……」


悠より年上の秘書がドアに抱きつくように立っていた。その向こうには支社の幹部社員たちが顔を揃えている。誰もが興味津々といった顔つきだ。


「あの……奥様がおいでと聞きまして……ご挨拶に、と」


悠は髪から手を離した。

千絵に間違いない。帰り際、悠の妻が来ていると会社中に触れ回ったのだろう。

秘書室のほうに向き直ると、悠は美月の肩を抱いた。


「挨拶は次の機会にしてくれ。妻と食事に出てくる。午後の仕事はキャンセルだ。それくらい構わないだろう?」


その言葉に全員うなずき、人垣が左右に割れて道ができたのだった。



「ごめんなさいね。突然訪ねてしまったから……」

「いや、君ならいつでも歓迎だ」


明日中には、いや、もうすでに支社中で『本当に結婚してたんだ!』と社員全員が騒いでいることだろう。


「社内にいらっしゃる女性に、言い訳してきたほうがいいんじゃないかしら?」


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