愛は満ちる月のように
『僕と結婚すればいい。とりあえずは君が二十歳になるまで。そのあとは……状況に応じて決めよう』


そんな言葉で求婚したことを悠は思い出していた。


「それは……彼女の存在を知ったから? とか」


恐る恐る尋ねるが、美月は笑って首を振った。


「まさか! 向こうにいてそんなことはわからないわ。もちろん、予想はしてたけれど」


ダブダブのジャケットは似合っていないが、背筋をピンと伸ばして話す姿は、悠の目に凛々しく映る。

数歩前に進み、美月の前に立つ。そして、自分でも無意識のうちに、その髪に触れていた。


「じゃあ答えは簡単だ。君をこんなに可愛らしい髪型にさせ、大人の女性に変えた男のため、ってことか」


長い髪の毛先を指先に巻き取り、口元に引き寄せようとしたとき……。

ガタン、と大きな音がした。


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