愛は満ちる月のように
他意はないのだろう。

だが、美月の耳には“可愛げのない女”と言われているように思える。


「一条さんと結婚されたということは、奥様のご実家も大きな会社を経営されてるんですか?」

「それは……」


美月は“藤原”も“桐生”の名前も出したくなかった。


「一条とは……主人の弟と私が同級生だったの。幼なじみと言えばいいのかしら……学校が一緒で。私の父は……千早物産の社長をしているわ。でも、オーナーではないから」


すると茉莉子は驚いたような声を上げた。


「うわぁ! 千早物産は業界大手ですよ! 同じ業務用や冷食を取り扱ってますけど……資本も利益も桁違い! やっぱり違うんですね。住む世界が違うって感じです」


その大袈裟な反応に、美月のほうがびっくりだ。



“藤原”は文句なく国内最大だろう。

地方都市のO市であっても、その名前を出せば、あらゆる場面において過分なほどの特別扱いを受けられるはずだ。

それより一段下になる“一条”でも、県知事を悠のオフィスに呼びつけることくらい可能だった。


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