愛は満ちる月のように
「明日くればいい。結婚式があれば別だが、そうでなければ、見学させてもらえるだろう」

「夫婦で見学させて欲しいと言うの?」

「おかしくはないだろう? 結婚後に式を挙げる夫婦だっている」


そんなことを口にしながら、思い出していたのは両親のことだった。


悠の両親も入籍後に式を挙げていた。

妹が生まれる半年前の日付で、挙式の写真が残っている。ウエディングドレスとタキシード姿の両親の真ん中に、三歳になるかならないかの悠も写っていた。


「ええ、そうね。うちの両親がそうだわ。父は最初も二度目も子供が先だ、と言われて……周囲から随分と冷やかされたらしいの。今の母は、結婚式はしなくてもいいって言ってたけど、父がケジメだからって。会社の関係者や親戚、お互いの家族も招いて、ちゃんと挙式と披露宴までしたのよ」


その話に悠は感心していた。


「君のお父さんならわかるよ。他の何より、家族が最優先というタイプに思える。正式にお披露目することで、順番が違っても妻にした女性の名誉を守りたかったんだろう」


何気なく言った言葉だった。

だが、次に美月が口にしたセリフは、悠の胸に後悔の痛みを与えた。


「昼間、言われたの。私たちはさぞかし素敵な結婚式だったんでしょうね、って。判事の前で誓って、結婚証明書をもらっただけ、なんて言えなかったわ」


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