愛は満ちる月のように
悠が気分を切り替えて美月に話しかけようとしたとき、彼女は別の何かを見つけたらしく、そこに駆け寄っていた。


「素敵……中世ヨーロッパの教会だわ」


地方都市の住宅街にその教会はあった。

中世ゴシック様式の建築で、聖人の名前がついたウエディング専用の教会と聞いている。大安の休日など、悠のマンションまで鐘の音が聞こえてくることもある。


吸い寄せられるように教会に近づく美月のあとを追い、悠もアーチをくぐった。


敷地に入ると二メートルくらいの高さに剪定されたウバメガシの生垣が、教会をぐるりと取り囲んでいた。

美月はキョロキョロと辺りを見ながら、レンガの敷き詰められた通路を歩いて行く。

日本ではあまり馴染みがないが、キリスト教圏の教会、聖堂は誰でも自由に出入りできる場所だ。気軽に立ち寄り、祈りを捧げて立ち去る。

日本人の感覚でいうなら、神社でお賽銭を投げて手を合わせるようなものだった。

美月も当然その感覚なのだろう。


だが、ウエディング専用教会と言われるここは、聖堂には鍵がかかっていた。聖職者が常駐していないので、解放できないのだろう。

しかも、今日は日が悪かったのか、教会が使われた様子もない。灯りもついてはおらず、人の気配もなく、全体的にしんとしていた。


「素敵な教会なのに、残念だわ」


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