愛は満ちる月のように
「怒って……ないわ。そもそも、姉さんを嫌っていたのはおばあ様のほうだもの……」

「よかった。お姉さんが帰ってきたらみんな喜ぶよ。そのときは、真さんが僕のお兄さんになるんだって。それって、ホント?」


なんと答えたらいいのかわからない。

真は去年の夏にボストンを訪れたときも同じようなことを言っていた。美月が十六歳のとき、真も十六歳だった。結婚可能な年齢であったなら、自分が結婚していたのに、と。

真は本気で美月を想っているのだろうか……。初恋の延長ではなく、ひとりの男として。


「それは……でも今、あなたがお義兄さんと呼ぶのは、ユウさんのほうよ」

「うん! もちろん、わかってるよ。真さんから聞いてる、お義兄さんて凄く頭がよくてカッコいいんだって。優しくて、頼りになって……両親にとって自慢の息子だから。自分じゃ代わりにならないって……ちょっと悲しそうだったな」


ツキン、と胸が痛む。

それは小太郎自身の思いも含まれているのではないか、と。

美月が日本にいたころ、心ない人間が彼女と小太郎を比べて『お姉さんのIQを少しもらえたらよかったのに』などと下種な言葉を口にした。美月がいなくなったことで、彼に余計なことを言う連中が増えてはいないだろうか……。それが心配でならない。


「小太郎……学校で何か言われた? もしそうなら、お父さんかお母さんに……小太郎?」


隣の布団からスースー寝息が聞こえる。

美月が思うより小太郎は強いのかもしれない。苦笑して、布団をかけてやる美月だった。


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