愛は満ちる月のように
三人が来ているのはO市内の動物園だ。

弟たちは学校の関係から、今日一日しか滞在できない。明日の朝にはバイクで東京に帰るという。強行軍にならないようにするため、大阪まで迎えが来てくれるそうだ。別の人間が小太郎をバイクに乗せ、真は車で戻ると聞いた。

悠を送り出したあと、せっかくだから、季節もいいことだし三人で外出することに決める。とはいえ、三人とも旅行者でO市内は地図なしではどこにも行けない。

しばらく考えた結果、動物好きの小太郎のため、シンプルでわかりやすい場所……動物園に来たのだった。

春休み終盤で子供連れの客も多く、結構な賑わいを見せている。こういった場所なら妙なことを企む連中がウロウロしていたら目立つだろう。とっさに、子供連れやデートを装って接近してくることはまず不可能だ。


もちろん悠にも連絡して許可をもらったが……。


『真と一緒なら安心だ。いざというときはアイツが君を守るだろう。楽しんでくるといい』


そんなふうに言われたのである。



「やっぱり、兄貴がいないと寂しい?」

「え? どうして……やっぱり、なの?」


真の質問を不思議に思い、美月は聞き返した。


「だって、昔からうちに来るたびに『お兄さんは?』って聞いてたじゃない。俺がどんなに一生懸命話しかけても、君の目は兄貴を追ってた。……だから、結婚したって聞いたとき、幸せな美月ちゃんを見たくてボストンまで行ったんだ」


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