愛は満ちる月のように

(6)初恋の小さな過ち

深夜零時を回っていた。

悠はそっと玄関の鍵を開け、中に滑り込む。一瞬、ほんの一瞬だけ、美月が真を選び、ふたりが愛し合っていたとしたら、自分はどうすればいいんだろう。そんな不安を覚える。

夫として嫉妬心を露わにすることなどできない。悠にはその資格がなかった。


だが、室内はしんと静まり返っている。みんな眠っているようだ。

そのことに悠は大袈裟なほどため息をついた。


リビングの一角、閉まった襖を見たとき、その向こうにいる美月のことを思った。

美月が桐生本家の財産を相続した以上、すべての不安を完全に消し去ることはできない。だがもう、これまでほど怯えて暮らす必要はない。日本で暮らすことも可能……美月が独身に戻り、子供を産むとしても、ボストンなら安全に暮らせるだろう。

それを伝えて、一刻も早く彼女を自由にしてやるほうがいい。

だが……黙っていればあと一週間は一緒にいられる。

悠の胸に姑息な思いがよぎる。


(セックスしたさに嘘をつくのか? どこまでろくでなしに成り下がる気だ!)


彼女の寝顔を見ようと和室に足を向け、襖に手をかけたところでやめた。


そのとき、リビングの窓にかかったカーテンが風に揺れた。そこはルーフバルコニーに出られる窓。悠の寝室からも出入りできるが、リビングからも可能なのだ。

悠がカーテンを除けると窓がほんの少し開いていた。


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