愛は満ちる月のように
だが、そこまで思いつめる悠を沙紀は嘲笑った。

そんなに深刻に悩むことじゃない。悠の父は簡単に沙紀を捨てたし、妊娠して罠に嵌めた悠の母のことも、一度は捨てたのだから……。



『父さんは望んでなかったのに、母さんが勝手に僕を生んだのか? 本当に、母さんや僕を捨てて、他の人と結婚したのか?』


泣きそうな悠に比べ、父は落ちつきを取り戻し、


『……そうだ。そのことに言い訳はしない。ただ、人生における最大の過ちだったと、今も思っている』


冷たく言い切った。


『そうか……僕は過ちの結果な訳だ』 

『父さんを責めて気が済むなら責めればいい。だが、遠藤沙紀はこれを持って私のところにきた。大事な息子の未来を潰したくなければ金を払え、と』

『金なら……もう』

『数百万のはした金ではなく、私の実子として相続するはずの財産を寄越せと言ってきた。悠……おまえは罠に嵌められたんだ』


悠はそのとき初めて、最初の妻、遠藤美和子との離婚騒動や“嫡出否認”の事実を聞かされた。


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