愛は満ちる月のように
『じゃあ、本当なんだ。彼女は本当に父さんの……』 

『娘じゃない。彼女の母親と結婚していたのは事実だが……もし、私の娘なら、放り出すような真似は絶対にしない。美和子と別れても娘だけは引き取ったはずだ。それだけは……』


悠は後ろめたさと父に対する怒りで、衝動的に叫んでしまう。


『僕のことはどうなんだ!? 僕が生まれたとき、父さんは他の女と結婚してたじゃないか? でも、母さんは父さんに逆らって僕を生んだ。それを知ったから、急遽結婚を取りやめにしたんだろう?』


父は見る見る青ざめ『沙紀に聞いたのか?』とひと言だけ尋ねる。


『二十年前の新聞記事を見せられた……』



沙紀の告白を聞いたとき、母にだけは知られたくないと思った。

母は父に実子がいることを知らないはずだ。知っていれば、母の性格ならなんらかの形で姉の存在を悠たちに示したはずである。母を傷つけたくはない。

そして……沙紀との関係を知られる訳にはいかない。


悠は自分が用意できる金額をすべて沙紀に渡した。

軽率な行為で命を与えてしまった我が子を、始末してくれるように頭を下げたのだ。

たとえどんな状況であっても、死んでもそんな言葉を口にすることはない、と思っていた。悠の中にあった純粋な良心を、自ら手放した瞬間だった。 

許されない罪を犯した。だが、血の繋がった姉の産んだ子供を認知することは可能であっても、子供の人生にとんでもないマイナスをつけてしまう。それも愛ではなく、過ちから生まれたとなれば……。


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