愛は満ちる月のように

(2)魔女の要求

休みを取る予定が難しくなった、と美月に告げた。

本音を言えば怖かっただけだ。彼女を失いたくないと思う自分と、それは愛情ではなく男のエゴに過ぎないと警告する自分。

鬩ぎ合う心に後ろめたさが加わり、悠は美月の前から逃げ出した。


(今度会ったときは、確実に殴られるな……)


真の顔を思い出しながらそんなことをひとりごちる。

――ったく、兄貴も父さんとそっくりだ。

そのセリフが悠の中で繰り返し再生されていた。

これほどまで父に似ている悠のこと。人並みに女性を愛することも、幸福にすることもできず、将来に禍根だけを残すのは目に見えている。


父を恨むのはお門違いだとわかっていたが、それでも恨まずにいられない。

父が遠藤美和子と結婚さえしなければ、悠が魔女のような女に魅入られることはなかった。

親の事情はわからないが、どうして父から望まれもしなかった自分が、憎しみの怨嗟を買わなければならないのか……。


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