愛は満ちる月のように
真の質問の真意はわからない。だが、


「大事だよ。“妻”だからな」


形式上であれ、期間限定であれ、今の悠にとって美月はたったひとりの家族だ。プライドを捨て、嘘をついてまで引き止めたいほどの……。


「そっかー。だったらいいよ。今はそれで勘弁しておいてやる」

「なんだ、それは……」

「俺の気持ちは兄貴にも言ったし、美月ちゃんにも言った。返事が決まったら、ちゃんと教えろよ。いいか? 十年前みたいに逃げんなよ。何が起こってるのか、兄貴が何を考えてるのか、何も言わずにあのときは逃げたけど……今度は逃がさないからな」


真は、悠と美月の関係を知ったのだ。

それに気づきながらも、悠には何も言うことができない。


「――逃げてない。逃げてたら、今ごろ日本にはいなかったろうな」

「ふざけんなよ。吼える犬から十メートルしか離れてない、百メートルに比べたらマシだろう、なんてマジで言ってんのか? ったく、兄貴も父さんとそっくりだ。ボロボロになっても自分で担ごうとする。姉貴や俺も、紫だっていつまでもガキじゃないんだぜ。少なくとも、美月ちゃんからは逃げるなよ。そんときはぶん殴るから、忘れんな」


朝の陽射しが清んだ空気を金色に染める。

眩しい光の舞う中、車道まではみ出した緑の街路樹の下をふたりの弟は走り去った。


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