愛は満ちる月のように
父との親子関係については法律で決着がついている。

だが、沙紀はそれを認めず、執拗に纏わり付いてくる。


幹部は承知しているとはいえ、社員ひとりひとりに説明して回るわけにもいかない。

海外の出張を多くすることで対処していたが、それだけでは済まなくなり……。とうとう二年前、悠は西日本統括本部長としてO市への赴任が決まった。
 

悠の態度に臆するでもなく、むしろ楽しそうに沙紀は答える。


「そんなこと知らないわ。私が噂を流したって証拠は見つからなかったんじゃないかしら? 人聞きの悪いことは言わないでちょうだい」

「ついでにもうひとつ言っておく。美月には何を言っても無駄だ。それに……もうすぐ離婚する。そうなれば、一条とはなんの関係もない女性だ」

「ふーん、どっちでもいいわ。私の望みは、お父さんに実子として認めてもらうことだもの」

「それは無理だと何度言えばわかる? 法的に決着のついていることだ」

「それが何? お金で捻じ曲げられた真実よ。私は信じないわ。絶対に信じない……死ぬまで、あなたから離れないわよ。それがイヤなら、お父さんに認めるように頼むのね。……あなたが東京に戻るまで、私もこの町に住むことに決めたわ。また、仲よくしましょうね」


間違っているのは沙紀のほうだ。

それなのに、積み上げては壊されていく虚しさに、悠はそこはかとない絶望を感じていた。


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