愛は満ちる月のように

(3)決意

「お待たせしました。念のため、二枚お渡ししておきますね」


そう言ってニッコリと笑った区役所の窓口に立つ女性職員は、おそらく未婚者なのだろう。美月より若く、配属されて間がないように見える。

マニュアルどおりの応対に不快とは言わないが、複雑なのはたしかだ。

かたや、隣の窓口では婚姻届を提出するカップルが。応対する三十代の男性職員はニコリともせず、淡々と受け付けている。


(もともとの性格なんでしょうね……臨機応変というのは、お役所の窓口に求めちゃいけなかったことだったかしら?)


長く日本を離れているので、その辺の常識はやや心もとない。

ボストンでは行政の人間とも親しくしているが、思えば、日本で行政機関に関わったことなどないのだ。国民性や慣習を考えても比べるのは間違っている。

美月はそう結論づけながら、「離婚届の書き方を説明いたしましょうか?」という女性職員に礼を言って断り、区役所をあとにした。


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