愛は満ちる月のように
悠が仕事に出て、帰ってくるのを待つ。

それを数回繰り返しただけで、あっという間に月は満ちていった。


弟たちが来たからだろうか? あるいは、大阪で何かあったのかもしれない。それとも、遠藤沙紀の言葉を美月が遠慮なしに尋ねたことが原因なのかも……。


とにかく、あの日から悠の態度が変わった。

美月を抱いても、以前のようにのめり込む感じではなく、どこか冷めている。眠ったフリをする美月をベッドに残し、バルコニーでジッと月を眺めていることもあった。

外出先でも食い入るように美月を見ているかと思えば、彼女が視線を向けると逸らしてしまう。

もっと変わったことは、美月の外出をうるさく制限しなくなったことだ。行き先を悠に伝えておくだけで、夜までに帰ればいいという。


桐生の件で何か判明したのかもしれない。

聞きたいが、悠の変化に戸惑い、美月は聞けずにいた。


区役所の前でタクシーを拾うと、


「県庁近くまでお願い」


悠の会社の隣にある県庁を目印に伝えて、美月はもらったばかりの離婚届が入った封筒を、バッグの中に仕舞うのだった。


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