愛は満ちる月のように
美月の実母は旧姓を桐生奈那子(きりゅうななこ)という。

桐生家は政治家を多く輩出し、戦後の政財界に深い影響を与えてきた一族だった。そのため、現金に換えられる資産も相当あったが、換えることのできない、それでいて一部の人間には非常に重要な無形の財産も含まれていた。権力や影響力、いわゆる、公表できないが黙認されている資産もあったということだ。

そして桐生家の祖母が亡くなったとき、美月はひとりでそれを相続する立場になってしまう。

だが、美月や彼女の両親はごく普通の生活を望み、そう過ごしてきた。相続を放棄することも考えたが……美月の母、祖母、ともにひとり娘で近しい血縁は誰もいない。特別縁故者に該当する者もいなかった。

仮に、美月が相続放棄をしてしまった場合、資産は国のものとなってしまう。

だが、数千万円、数億円の金額ではなく。それ以上に、経済界のバランスを崩してしまうことすら起こりうる。

美月は仕方なく、十五歳で莫大な資産を相続した。


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