愛は満ちる月のように
陽射しが暖かいせいか、ベージュのトレンチコートはバッグを持つ腕にかけている。艶めく髪は少し傾きかけた太陽の光に煌めき、春の風に靡いた。

うつむき加減で道を歩く違う男たちは軒並み、美月とすれ違う瞬間ハッとしたように顔を上げ……。続けて、颯爽とした美月の後ろ姿を振り返る。

そのうちのひとりが胸ポケットから何かを取り出し、美月に声をかけていた。


(……ったく。人の妻に……)


舌打ちして悠は身を翻そうとした。

迎えに下りるべきだと思ったとき、悠は目の端に違う何かを捉える。

引き返して再び視線を向けると、声をかけた男ではなく、スーツ姿の女性が美月と対峙していた。


(沙紀か? いや……あれは……)


美月より少し背が低いが、スタイルは遜色なく見える。ひとりの女性の名前が胸に浮かんだとき、悠の携帯が音を立て始めた。

思考を遮られたものの、視線を美月に向けたまま通話ボタンを押す。


「ああ……一条だ。すまないが、あとでこちらからかけ直すから……え?」


それは桐生の件とは別に依頼した、O市内の調査会社からの報告だった。


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