愛は満ちる月のように
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今夜で終わりにするなら、きちんと思いを告白しよう。

那智と話をして、美月はそう思い直した。

最初は何も伝えず、物分りのいい大人の女性を気取って、笑顔で離婚届を渡すつもりだった。面倒な女とかかわった、こんなことなら助けてやるんじゃなかった、そんなふうに思われるのが怖かった。


(それじゃきっと諦めきれずに、ずっと引きずることになってしまうわね。この気持ちに決着をつけるために来たんだもの。しっかりしなきゃ!)


美月は自らを鼓舞するように顔を上げ、姿勢を正した。


その直後、ひとりの女性に声をかけられたのだった。

彼女の背後には立ち止まってこちらを見ている男性がいたが、どうやら連れではないらしい。バツが悪そうにそそくさと立ち去った。



「こんにちは、一条美月さん。私のこと、覚えていらっしゃるかしら?」

「ええ、覚えていますわ。たしか……主人の愛人さんでしたわね」


そう言うと、美月は目の前に立つ女性、植田千絵に向かって微笑んだ。
 

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