愛は満ちる月のように
どうして美月の後ろに悠がいるのだろう? 

不思議に思ったが、今、美月がその場所にいられるのは、悠が彼女を抱きかかえるように支えているからだ、と気づく。


「ゆ……さ、ん」

「説明はあとにしよう。とりあえず、僕の首に抱きついてくれ。さすがに片手だから、そう長くは持たないんだ」


悠の片手は美月の腰に巻きついていた。

もう片方の手が柵のポールを掴み、それでふたり分の体重を支えているらしい。


美月はゆっくりと手を伸ばし、言われるとおり彼に抱きつく。

すると悠は、空いた手で美月の膝下をすくうように抱き上げ、そのまま反動をつけて柵を飛び越えた。



「しかし……驚いたな」


那智がホッと息を吐きながら言う。

それに重ねるように、


「ああ、驚いたよ。どういうことなんだ? どうして君が美月と会ってる? まさか……突き落とそうとしたのか!?」


悠の言葉は美月ではなく、千絵に向けたものだった。


< 262 / 356 >

この作品をシェア

pagetop