愛は満ちる月のように
「……私、何か変なことを言った?」

「いや、そうじゃないよ。一条を捨てたら、僕の価値はゼロになるんだろうな、と思ってね。それでいて、沙紀という魔女だけは残る。生きるってことは楽じゃないな」


すると、ワイシャツの胸元を掴み、美月がグッと顔を寄せる。


「ゼロになったからなんだというの? 沙紀は沙紀よ。彼女はあなたのオプションじゃないわ! それとも、女を誑し込むために一条のブランドが必要なのっ!?」


しどけない姿とは裏腹に、彼女は本気で怒っているらしい。


「い、いや、女性に声をかけてきたのは……怖かったからだ。誰かを求めてないと、いつまでも沙紀の気配が消えない気がして……。誰にも必要とされてない。この世界から切り離された気がして……。怖かった……それだけだよ」


我ながら、情けなさ過ぎる。

そう思いながらも、美月の顔は『嘘は許さない』と言っているようで、馬鹿正直にも答えていた。


「ゼロでいいわ。一条の名前なんてあってもなくてもいい。でも、魔女のオプションはいらないから、私が追い払ってあげる。セックスが必要なら、私を抱いて……」


悠には美月が何を言い出そうとするのかわからず……。


「誰でもいいなら、私を選んで。ユウさんのことを愛してるの。ずっと好きだった。もう一度、ボストンで一緒に暮らしたい」


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