愛は満ちる月のように
……そこまで話したとき、美月の瞳に炎が浮かんだ。

それが怒りのあまり込み上げた涙で、だが、彼女はその涙を上を向いてごまかし、決して流さなかった。


いつも礼儀正しく、穏やかな笑みを湛えていた少女。

弟から聞いていた彼女が、どこにでもいる普通の少女ではないことに、悠はこのとき気がついた。

奥歯を噛み締め、頬を小刻みに震わせながらも、涙を飲み込む彼女に……不覚にも見惚れていたような気がする。


悠は小さく咳払いして、


『いやなことなら無理に話す必要はないんだ。深く詮索するつもりはないし……』

『こんなこと……聞かされても、お兄さんが困りますよね』


美月は無理やりのように微笑んだ。


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