愛は満ちる月のように
『すべてを桐生に戻して欲しいとは言わない。だが、経済界のバランスを取るため、美月が十六歳になりしだい、息子の久幸(ひさゆき)か友朗(ともろう)と結婚して欲しい』


善朗には二十代の息子がふたりいた。どちらも評判はよくないが独身だ。善朗が理事を務める経済研究所に所属し、経営コンサルタントを名乗っているが……。実際のところはニート同然という噂だ。

結婚すれば美月は成年に達したものとして擬制(ぎせい)を受ける。

飲酒喫煙などは認められないし、選挙権もない。だが、財産の管理は自ら行うことができる。というのは建前で、美月の婚姻により、父親の後見――ひいては藤原の鎖を外そうというのが桐生の狙いだ。

実質、妻の資産を動かす権利は夫のほうが強くなる。父親の出番はなくなり、いずれすべての資産を美月から奪い取る算段なのは誰の目にも明らかだった。

当然、美月の両親は反対する。


『娘には、仕事も結婚相手も自由に選ぶ権利がある! 桐生も藤原も関係ない。そんな結婚は承諾できない』


父親の太一郎は徹底的に桐生の要求を跳ね除けた。

最初は嫌気が差すほどしつこくやって来るくらいだったが、その口調はしだいに攻撃的になり、脅迫じみたものに変わっていく。


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