愛は満ちる月のように
「それは私たちではなく警察に説明するのね」

「ええ、そのつもりよ。ちゃんと説明したらわかってくださると思うわ」

「何年にも渡って同じ言い訳を繰り返しているみたいだけど……次はないわよ」

「あらあら怖い奥さんね。私を脅すつもりなら……」

「バカなことを言わないで。私はあなたを心配しているだけよ。何年間も世間一般で常識とされていることが理解できず、赤の他人を弟と呼び続けているんですもの。きちんとした病院で鑑定を受けて、必要に応じて治療してもらうことをお勧めするわ」


美月の言葉に思い当たることはある。

精神鑑定なら受けさせた。結果、精神疾患とは認められなかった。仮に認められたとしても沙紀の罪が免除されるだけで、悠は更なる我慢を強いられることになる。 

悠の思いが伝わったように沙紀の嘲笑がリビングに広がった。


「いいわよ。また受けましょうか? 以前はなんの病名もつかなかったと思うけど……」

「ええ、受けてもらうわ。事件を起こすたびに何度も、何度でも。病名がついたときは、そうね、あなたのために必要条件を満たした指定病院を作って差し上げるわ。せっかくのご縁ですものね、あなたが生涯に渡って治療できるように尽力しましょう。ああ……お金のことなら心配なさらないで、私は曽母から受け継いだ財産をボランティアに使い果たすことが使命だと思ってるのよ」


このとき初めて、沙紀の表情が変わった。


直後、フロントから連絡があり、警察がやってきた。

沙紀は連行されながら、

「この女は私を精神病院に閉じ込めるって脅したのよ。脅迫だわ! この女も捕まえてちょうだい!」

そんなことを喚き続けていた。


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