愛は満ちる月のように
悠は指輪を握り締めたまま、ふたたび美月の手を取ることはしなかった。


『……すまない……』 


春だというのに、凍えるような声で謝罪を口にした。謝って欲しくはなかったけれど、さすがに美月も言い返す力は残ってはおらず。


『いいのよ。私は後悔なんてしてない。……あなたもそうだといいけど』


声を震わせた美月に悠は、


『君にはもっと相応しい相手がいる。精子バンクの件は……』

『あなたには関係ない! そのことは、私に“相応しい相手”と相談するわ。あなたが言いたいのはそういうことでしょう? 今までありがとう。――さようなら』 



あの翌日、警察に出向いて事情を話し、その足で東京の自宅に戻ってきた。

両親も弟も喜んで美月を迎えてくれて……。年老いた祖母から初めて『美月ちゃん』と呼ばれた。

それは嬉しくもあり、寂しく思えたのは自分が少し成長したからかもしれない。

そんな感慨を覚える美月だった。
 

「離婚届を彼に預けてきたから、きっと都合のいい時期に提出してくれると思うわ。何年も拘束してご迷惑をかけたんだから、それはあちらに任せようと思って」

「そうか……。まあ、一条もグループ内でゴタゴタがあって、悠くんも従妹との間に結婚話が出てるというから、ちょうどよかったのかもしれないな」


< 288 / 356 >

この作品をシェア

pagetop