愛は満ちる月のように
微妙に変わり続ける沙紀のまなざしを、美月は何も言わずに受け止めていた。


「あなただって、私のせいでアメリカに帰ろうとしてるんでしょう? 男のプライドだかなんだかわからないけど、あの子は妙に意地を張ってるじゃない? でも、あなたなら話がわかるんじゃないかと思って……」

「それで……いくら欲しいの?」


美月の返事に沙紀の顔はパッと輝いた。


「二千万もあればいいわ。田舎で自分の店を持つくらいの金額よ。それで一条の財産も諦めるって言ってるんだから……あなたみたいな人間にすれば、ほんのはした金でしょ?」


沙紀の言葉に彼女が知り得た美月の情報が、父方の“藤原”だけであることを知る。

なぜなら、すでに“桐生”の財産を相続していることまで知っていたとすれば、要求額は確実にもうひと桁プラスされたことだろう。


「そうね。たしかに、はした金だわ」


美月はわざとらしく鼻先で笑い、そう答えた。

そんな鼻持ちならない金持ちを演じる美月に、沙紀はムッとした顔で言い返す。


「アメリカのガールズシェルターとやらの弁護士って、ボランティア並みの安月給なんですって? いいわよねぇ、パパがお金持ちだと。いい学校を出て施し気分で働いて、弁護士様なんて威張っていられるんですもの。――金持ちなんてクズばっかりよ」


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