愛は満ちる月のように
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「父に聞くことができなくて……結局、母に聞いたんです。夏海おばさまは大学を卒業してすぐ一条の会社に就職して、父の秘書をやっていた、と」


それは悠も知っていることだった。


当時、社長であった祖父は、叔父・匡の結婚相手として悠の母を薦めたという。だが、父と母はふたりとも会った瞬間にひと目惚れで、その日に交際を始めた。

直後、些細な喧嘩が理由で別れ、母はひとりで悠を産んだというが……。


(出会ったときに、父さんには婚約者がいたんだから……ひと目惚れも何も、単なる出来心の浮気じゃないか)


喧嘩の原因もよくわからず、父の誤解、とだけ聞いている。


「若いころの父はたくさんの女性とお付き合いしていて、母はその中に夏海おばさまもいたと聞いたらしいの。聡伯父様の両方と付き合っていて、悠さんの父親は……本当はうちの父じゃないか、と」


遥の言葉を聞いた瞬間、一気に酔いが醒めた。


「バカなことを言わないでくれ! 僕の母はそんないい加減な女性じゃない。たとえ叔母さんでもそんな噂を流すのは……」

「怒らないで、悠さん。もちろん、わかってるわ。だって、ほんのわずかでも可能性があったら、父が私と悠さんを結婚させようなんて考え付くはずがないもの。そうでしょう?」


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