愛は満ちる月のように
悠は口を閉じたものの怒りは収まらない。

子供心に、叔母から嫌われていることは察していた。

でもその理由は、祖父が男の孫ばかりを可愛いがり、娘ふたりしか授からなかった叔母を蔑ろにしている、と思い込んでいたせいだと考えていた。

それがまさか、自分の夫と悠の母の関係を疑っていたからなんて……。


「母のことを悪く思わないで。若いころの父が誤解を生むようなことを言って、それが母の耳に入ったらしいの。それに……その誤解が悠さんのご両親の結婚を遅らせる原因にもなったって聞いて……」

「……叔父さんはいったい何を言ったんだ?」


大いに気になるが、遥の母もそのことは言おうとしなかったらしい。


「父はそのことを後悔しているみたい。だから、聡伯父様の代わりに、悠さんを助けようとして……あなたを困らせている遠藤さんという女性に大金を支払ったそうよ」


遠藤沙紀が祖母から金を引き出していたことは知っている。その理由は悠の件ではなく、沙紀の母と悠の父が離婚した一件まで遡るというが……。


「ごめんなさい」

「どうして謝るんだ? 叔父さんが金を払ったというなら、僕の評判を考えて、ということだろう。会社の名前にも関わることだ。普通の対応だと思うよ……謝ることじゃない」


むしろ、父のように毅然と切り捨てるほうが難しい。そして沙紀がターゲットを父から悠に変えたことを知りながら、父は何も言ってはこなかった。


「でも……伯父様は、悠さんはそんな弱い男じゃないって」

「自分がそうだから、僕もそうだと思ってるんだろうな。本当は……弱くて情けなくて、ただ逃げ回っているだけの男だ。……だから君も、僕とは結婚したくないと思ったんだろう?」


悠は苦々しそうに笑みを浮かべて立ち上がり、バスルームに向かった。


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