愛は満ちる月のように
「珍しく気が合うわね……ホント、バカげてるわ。退院前にもう一度調べてもらったほうがいいんじゃないの?」


沙紀の言うとおりだ。

奇しくも同意見だ、と彼女の顔を正面から見た。

その顔は、まるで恐ろしいものを目にしたような……強張り、色を失っている。


(なんで……この女がこんなに動揺してるんだ?)


そもそもなんで、同じ意見になるのかわからない。父は沙紀の言うとおりにすると言っている。思いどおりになったと喜ぶところではないだろうか。

そんな悠の視線に気づいたのか、さらに彼女の目が泳ぎ始めた。


「何よ。何を見てるのよ! バカバカしい。私、帰るから……」

「――逃げるな!」


沙紀の背中に鋭く声をかけたのは父だった。


「本当は、自分のしていることの虚しさをわかっているはずだ。悠が羨ましくて、引きずり下ろしたくなったんだろう? すぐに堕ちてくる愚か者だったら、あっさりと離れたはずだ。でも、君が人生と引き換えにしてまで堕落させようとしても……できなかった。もう、諦めなさい」

「そんなこと……私は、当然の……」

「助かりたいと思うなら、私の手を取りなさい。一度は妻と呼び、若いなりに本気で愛した女性の娘だ。悪いようにはしない」

「……」

「だが、もし、それでも歪んだ執着から離れることができないというなら……。君と決別しようと思う。弁護士資格と引き換えに」


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