愛は満ちる月のように
あまりにも静かで、迷いのない父の声に沙紀はいつもの悪態をつけずにいる。それは桜も同じらしく、先ほどまでわめいていた口に、鍵がかかってしまったかのようだ。

父がそこまで覚悟を決めているのなら……悠も腹を決めた。


「まあ……それも、いいのかもしれない」

「お兄ちゃん?」

「いい加減、“姉じゃない”と言い続けることにも飽きたよ。いっそ、本当の姉になるならそれもいい」


桜にすれば、父と同様に悠も壊れたと思ったかもしれない。

いや、実際に悠の中で何かが吹っ切れた。


「武器を持って戦うのは嫌だった。かといって逃げるのも嫌で……でも、これなら僕にもやれそうだ」

「何を……やろうって言う訳?」

「敵だから、勝つか負けるかの二択だと思っていたんだ。できれば、彼女のほうから勝負を下りてくれることを願ってた。でも、三つ目の選択肢がある――味方になればいいんだ」


桜は呆気に取られた様子だ。

一方、真や紫にすれば「なるほど」と納得している。


そのとき、沙紀が逃げるように、少しずつ後ずさりをした。彼女は扉の取っ手を掴むなり、一気に押し開き廊下に飛び出して行く。

そんな沙紀を真っ先に追いかけ、桜は病室を飛び出した。


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