愛は満ちる月のように
美月の個室は裏庭に面した一階にある。だいぶ暑くなってきたので窓は全開。大きな窓からは裏庭で遊ぶ少女たちの姿が見えた。

彼女たちは十代半ばから後半の年代が多い。だが中には、十代前半の少女もいて驚くこともあった。

シェルターは避難所なのでそう長く受け入れてはいられない。かといって他の施設に移ると……わずか数日で男が連れ戻しにきて、ふたたびSOSを受けることも少なくないのだ。

金や暴力、薬物……それらを使う男は最低だ。

だが最も卑劣な男は『愛』を理由に女を縛ろうとする。『愛してるのにどうして逃げる』『愛してるから嫉妬のあまり殴ってしまったんだ』何度聞いた言い訳だろう。

しかもそんな男の愛に応えると言って出ていく少女もいる。


(愚かだわ……でも)


以前なら、どうして捧げて尽くすのかわからない、そう思っていた。愛は対等であるはずだ。愛を尽くす価値もない男もいる。価値のある相手を愛し、尽くさなければ自分の価値も下げることになる。

でも今は……。


(まあ、何に価値を見出すかは本人しだいだし……。客観的に見て、不毛でしかない相手を愛することだってあるわよ……きっと)


でも……悠は違う。


悠は美月を弄ぼうとはしなかったし、会いに行ったのも、セックスをねだったのも自分からだ。

最初から『愛さない』と言ってる彼を受け入れながら、最後には愛をねだって玉砕したのも自己責任。


悠は悪くない。


美月が頑なに言うと、シェルターの所長で友人のリカ・ブロードハーストは、


『シェルターの女の子たちと同じことを言ってるわ』


そう言って笑った。


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