愛は満ちる月のように
「出て行こうと思ったけど、行けなかった。どうしても……君の迷惑になるとわかっていても、これだけは……」

「ユ……ウ、さん?」

「愛してる。君を愛してるんだ。いつからか、わからないくらい前から……。この街で一緒に住んでいたときも、十六歳の君に何度欲情したか知れない。今度会ったら、絶対に自制できないと思って……だから、会いに来れなかった」


信じられない強さで抱かれ、信じられない悠の言葉が耳に流れ込む。


「君は幸せにならなきゃいけない。でも、僕には幸せにできない、と。自信がなくて……愛してると、認めることができなかったんだ」

「じゃ……ど、して?」


どうして、今、こんなことを言い出すのだろう?

美月が泣いていたから? まだ、悠のことを忘れていないと知ったから、『愛してる』と言ったのかもしれない。

もしそうなら、すぐに離れなければ。

そう思うのだが、美月は悠の腕を振りほどけないでいた。


「離れたら、君のことも忘れられると思ってた。でも無理だ。これまでは、沙紀がいつも心の真ん中に居座って、彼女から逃れられないと思っていたんだ。それなのに……君がいなくなったら、考えるのは君のことだけになった」

「ウ、ウソよ……そんな……」

「嘘じゃない。それから父が……事務所を畳んで、沙紀を養女にすると言いだした」


美月は、そのあまりに突拍子もない内容に息が止まった。


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