愛は満ちる月のように

(9)君しかいない

吹き込んできた熱い風にダークブラウンの髪が数本ふわふわと靡き、美月の視界をよぎった。


そして、ドアがバタンと閉まったとき――抑え切れない嗚咽とともに涙が溢れ出す。


「……いかないで……」


消え入るような声で、ようやく思いを口にできた。


「……ユウさん、おねがい……行かないで、傍にいて……」


デスクに縋りつくように、美月は床に崩れ落ちる。



そのとき、わずかに風が揺れ――。



「……本当に?」



美月が振り返る寸前、背後から包み込むように抱き締められた。



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