愛は満ちる月のように
一条の財産を継ぐ人間は何人もいる。

会社は一条の血縁にこだわらなければ、悠が辞めても傾くようなことはない、と。

そう言ったときの悠は、本当に晴れやかな顔をしていた。

そのまま美月から手を放すと、彼は床に両手をついて頭を下げる。


「一条のバックアップも何もない。何も持たないただの男だ。でも、君だけは失いたくない。ここから、全力で挽回する。だから……僕を君の子供の父親にしてくれないか?」


悠の言葉に美月はハッとした。

彼を信じずに、とんでもない嘘をついてしまったのだ。


「あ、あの……ユウさん、わたし」

「君のお父さんのような父親になると誓う。たとえ、生まれてきた子供が金髪だろうが、青い目をしてようが……僕の子供だと言ってみせる。残りの人生すべてを懸けて、君たちへの愛情を証明させて欲しい。頼む」


早く告白してしまわなければ、あとになればなるほど、悠はショックを受けて怒ってしまうかもしれない。


でも……。


美月は悠の首に手を回し、力いっぱい抱きついた。


「好き……愛してるの。離さないで、ずっと一緒にいて。本当は六年前も言いたかった。帰らないで、ここにいて、ひとりにしないでって。ユウさんのバカ! ユウさんが悪いのよ……全部、あなたのせいなんだからぁ」


そこに美月の場所があった。


誰のものでもない美月だけの場所に、彼女はようやくたどり着いたのである。


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